彼・・・私の天使。
2
「何かあったの?」
「うん。ちょっとね。相談に乗ってもらおうかなって」
「じゃあ電話して正解だったのかな? 言い難いこと?」
「この前、プールで気を失った時、来てくれた彼なんだけど……」
「あぁ、あの坊やがどうかしたの?」
「昨日、お礼もしたかったし出掛けたの、あの牧場に」
「あぁ、あのステーキハウスのオーナーのご実家ね」
「うん。あっ、オーナーが、あなたが元気かって聴いたわよ」
「えっ? そう? 私の事はいいわよ。で、どうしたの?」
「昨日、告白されちゃったんだけど」
「やっぱり、彼、本気なのね」
「やっぱりって?」
「あの時、本当に彼、飛んで来たのよ。すごく心配そうに。医者やってるとね、分かるの。ポーズだけなのか、本気で心配してるのか。ねぇ詩織、思い切って飛び込んでみたら? 彼の気持ちに」
玲子は穏やかにそう言った。
「でもね。気持ちだけで行動出来ちゃう年齢じゃないでしょう?」
「ある種の覚悟は要るわよ。私もそうだから。もし彼に、どう考えても私より、お似合いの人が現れたら、その時は別れるつもりでいるから」
「覚悟して付き合ってるの? 何か悲しいね」
「自分の幸せか、相手の幸せか。彼には幸せであって欲しいの。彼の幸せの邪魔だけはしたくないのよ」
「そこまで考えてるんだ。玲子がこんなに良い女なんだって知ってるのかしらね」
微笑んだ彼女の顔が寂しそうに見えたのは気のせいじゃない。
「詩織、先の事は分からないから今の気持ちに正直になったら? 彼のこと何とも思ってなかったら私に相談もしないでしょ? 大恋愛しなさいね。このまま人生終わったら勿体無いわよ」
「そうね。四十路の恋愛には覚悟が必要か……。私も彼には幸せで居て欲しいから。母の愛に限りなく近いわよね」
やっぱり玲子に聴いてもらって良かった。ただ若い男の子とチャラチャラしてる訳じゃないんだ。
大人だからこそ、自分の立場、退き際を心得て接してる。たとえ最後に自分が泣くことになったとしても……。
恋する四十路は辛いのよねぇ。
こんなに良い女が二人、また今夜も飲み過ぎるかも……。