彼・・・私の天使。
休肝日

1


 朝が来て、昨夜は何だか酔えなかったなぁ。

 玲子の顔と言葉を思い出す。
 相手の幸せを心から願えるなんて、もう人間愛以外の何ものでもない。彼女は本当に大人なんだと思い知らされた。そこまで大きな愛情が私の中に、とてもあるとは思えない。
 こと恋愛に関しては、ひよっこ。硬い殻の中に、ずっと閉じこもってた。もう誰かを好きになるなんて、ないと思ってた。

 つまり私は天使を好きになっていたってこと? 恋してた、この私が……。
 十代の娘だってちゃんと恋愛してるのにね。

 自分の恋愛レベルが中学生並みなんだと気付いて我ながら可笑しかった。さて中学生は仕事に行きますか? 
 会社では取締役社長。このギャップに笑うしかないわね。きょうも忙しいんだから、スーツという鎧を身に着けて。


 ウェディングプランの最終打ち合わせ。もう秋が目の前。十月、十一月には、土曜日曜、最近は平日でさえ予約が入る。大きな結婚式場とは違った手作り感が人気を得ているようで嬉しい。

 結婚して、みんなが幸せになれるのなら、こんな素敵なことはない。花嫁の幸せそうな笑顔は、ずっと変わらないで居てくれたらと願う。

 結婚したこともない私がウェディングプランを考える。可笑しい? 
 病気したことのない医者の方が多いんだから別に変じゃないよね。きょうも忙しく働いて一日が終わろうとしている。

 今夜は飲まないわよ、休肝日。二日続けて飲み過ぎた。ちょっと書店とパン屋さんに寄ってから帰ろう。

 グルメ系雑誌とセレブ系奥様向け雑誌。取材があったから書店に並んでるかリサーチ。両方とも平積みしてあった。
 売れ行きはどうだろう? 見てたら、その間に購入客数人。へぇ、売れるんだ。二冊とも出版社から送って来ていたので購入はなし。

 じゃあ、何か睡眠導入剤代わりに、たまには難しい本でも買う? 
 洋書、読めないし、メニューくらいしか。画集、絵は美術館で本物を観る方がいい。文庫本、電車通勤ならね。車だし。絵本、葉祥明の色使いとフンワリした感じが気に入って購入。
 これで眠れるの? でも置いてあるだけで優しい気持ちになれそう。

 それから、いつものパン屋さん。バケットが美味しいの。パリパリなのに中はフワフワで一人で半分くらいはいけちゃう。
 食べ過ぎ? カロリーはそんなに高くないと思ったけど。

 トレイを持ってレジへ。
 新しいバイトの子が入ったのかな。三日に一度は買いに来るから、見たことのない子だなぁと思ってたら、おつり間違えてるし。

「あの、五千円札を出したんだけど、おつりが多くないかしら?」

「あっ! すみません。ありがとうございます」

 奥から女性オーナーが笑顔で出てきて
「いつもありがとうございます。きょう入ったばかりのバイトですみません」

「いいえ。もう間違えないでね。バイト代から引かれちゃうわよ」

 恥ずかしそうに笑った顔が可愛かったなぁ。高校生くらいかしらね?
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