彼・・・私の天使。
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そこから真っ直ぐ帰りましたよ。「ただいま」誰もいないのにクセになってる。声に出して言った方が、帰って来たって気がするから。
でもそれだけじゃないな。いちいち言葉にして声を出してる。あっ、お洗濯終わった。さて干しますか? とか……。
テレビのニュースとかにもツッコミ入れてるし。特に読み間違い。真剣に聴いてる訳でもないのに、なぜかずっと耳に残ってて
「えっ? それ違う」
さあ、お料理しよう。一応ちゃんと和食、中華は習ったし、パスタは好きでよく作るし。きょうはオイルサーディンと玉葱のパスタ。
「美味しかった。ごちそうさま。お皿、洗おうっと」
やっぱり一人で、しゃべってる。食器洗い機、付いてるけど一人分なら手で洗う方が早い。
すると着信音、天使から。
「どうしたの?」
「明日、劇団の面接なんで、声聴いてパワーもらおうと思って」
「そうなんだ。今度は良さそうな劇団なの?」
「前の事務所の社長とは対極にいる方が主宰しているから」
「期待出来るのね?」
「はい。僕も楽しみにしてるんです」
「落ち着いて頑張ってきてね。いい結果が出るよう祈ってる」
「ありがとう。なんか声聴いて安心したから頑張れそうです。でも、あなたの顔見たら、もっと頑張れそうなんだけど」
「これからの人生を決める大事な時に、女の影がチラチラするようじゃダメよ。そんな軟弱な男、相手にはしないわよ。分かった?」
「あなたには勝てないな。そういうところ大好きです。じゃ、おやすみなさい」
ええっ? 今何て?
やっぱり可愛いのよねぇ。母の気持ちか。息子ってやっぱり可愛いんだろうなぁ。
この際、立派な役者に育ててステージママにでもなる?
いや、私には仕事があった。
劇団か。彼の望みの叶うところだといいな。