彼・・・私の天使。
お祝いのフルコース
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彼の劇団合格を定休日のお店で祝ってあげよう。そう思い付いた。貸し切りだし誰にも邪魔されない。
シェフは、もう実力は充分なのに、先輩シェフが居てメニューを任されたりする事のなかなかない二人に休日出勤してもらって、フルコースを材料もメニューもお任せで作ってもらえないかしらと頼んだら、二人共ぜひやらせてくださいと言ってくれた。
実は彼らが定休日の厨房で自前の材料を買い込み腕を磨いていたことを知っていたから、こういう機会を作ってあげたいと思っていた。
「どう? 進んでる?」
「あっ、ダメですよ。お客様は厨房を覗いたりしちゃ」
「はいはい。楽しみにしてるわよ」
「任せてください。他のお客様は、まだ来られていないんですか?」
「今から迎えに行ってくるわね。じゃ、後よろしく」
お店の場所は教えてあるから、もうそろそろ着いてもいい頃だと前の通りで待っていたら、天使が歩いて来る姿を見付けた。
「待っててくれたんですか?」
「分からないと困るから、どうぞ」
「素敵なお店ですね。こんな豪華なレストランの社長さんなんだ」
「何言ってるの? 今頃」
「もちろん知ってましたけど、改めてお店とあなたを見るとすごいなって」
「何にも、すごくなんてないわよ。私が作った訳じゃないから。もしかしたら最悪の二代目かも」
「そんな訳ないじゃないですか。ちゃんと跡を継いでいるんだから尊敬します。僕は逃げ出したから」
「シェフが待ちくたびれちゃうわ。さあ入って」
「はい」
「どうぞ、こちらのお席へ」
「ありがとう」
「ちょっと待っててね。あらっ? どうしたの?」
定休日なのにウェイトレスが一人、制服に着替えている。
「彼が、きょうお料理を任されるって聴いて、お手伝いしようと思って」
「彼? そうだったの。知らなかった。じゃあ、お願いしていい?」
「はい。まさか社長、ご自分で運ぶつもりだったんですか?」
「その、まさか」