彼・・・私の天使。
偶然の悪戯
1
次の定休日。きょうは銀座で、お買い物。デパートの前の歩道を歩いていたら声をかけられた。
「先日は、ありがとうございました」
「…………」
高校生くらいの男の子、どこかで会った?
「おつりを間違えた。パン屋でバイトしてる」
「あぁ、あの時の。あれから会わないけど」
「バイトの時間が変わったので」
「そうなんだ。きょうは、どうしたの? 銀座で」
「父と食事するので待ち合わせです」
「そう」
「あっ! 来ました」
「遅れて、すまんな」
「そんなに待ってないよ。バイト先のお客さんに会って話してたんだ。前に、おつりを間違えた時に教えてくれた」
「息子が、お世話になってます」
挨拶してくれた父親の顔を見て、心臓が止まるかと思った。
そんな……。この人の息子だったなんて。
別れた婚約者と出会うなんて。こんな偶然あっていいのだろうか……。
「あっ、いえ……。失礼します」
それだけ言うのが、やっとだった。
お直しの出来た洋服を取りに行って、他に買いたい物もあったのに……。
車に戻ってドアを閉めた。ハンドルに、もたれて涙が、あふれてきた。今さら悲しい訳じゃない。悔しい訳でもない。
運命の悪戯だとしたら、あまりにも性質の悪い……。
同じ空の下で生きていたとしても二度と出会いたくなかった。