彼・・・私の天使。
初めての食事


 そんなある日……。

「きょうも、お客さん少なかったわねぇ」

「そうですね」

 なんて話しながら外へ出たら雨。

「天気予報、雨なんて言ってなかったのに」
 子供みたいに口をとがらせて。

 そのしぐさが可笑しくて、つい
「なんなら、送りましょうか?」

 傘を持っていた私は、きっと断るだろうと思って言ったのに、意外な反応が。

「僕のマンション、すぐそこなんで、送ってもらえますか?」

 そんな訳で、こんな若い男の子と相合傘するハメになり

「すぐですから」

 本当に劇場から歩いて五分くらいだったけれど。

「ありがとうございます。ところで、お腹空きませんか?」

「えっ? あぁそうねぇ」

「僕、ハンバーグ食べたいんですけど付き合ってもらえませんか?」

 あぁ、ハンバーガーねぇ。たまには、いいかぁ。
「いいわよ」

「じゃあ僕、傘取ってきます。ちょっと待っててください」

 エレベーターは七階で止まった。

 学生、独身用のマンション? でも家族連れも住んでいるような。いろんな間取りの部屋があるのかしら、なんて考えていたら品の良さそうなご夫婦連れが帰っていらした。怪しげなマンションではなさそう。

「すみません。お待たせして」

 彼、フォックスの傘を持って現れた。お坊ちゃま? いや傘くらい誰でも買えるし。

「行きましょう。近くなんですけど付いて来てくださいね」

 雨のせいで傘が邪魔で付いて来てって言われたから仕方なく後ろから付いて行く。

 そういえば男の人の後ろを歩くなんて何年ぶりだろう。いや彼の場合、男の子だなぁなんて考えていたら

「ここです」

 雑居ビル? 狭い階段を上って彼はドアを開けた。

 こんな所にあるんだ、お店。しかも美味しそうな匂い。ゆったりとは言えないけれど、賑やかで明るい、あったかい雰囲気のお店。
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