彼・・・私の天使。
2
車のエンジンをかけて、とにかく行き先も決まっていないのに走らせた。
どこへ行こう、どこへ行きたい?
何にも浮かばない。頭の中が混乱してて……。
いつの間にか車は高速を走っていた。どこへ行こうとしているのか自分でも分からなかった。
何時間、走ったのだろう。
私は母の入っている施設に来ていた。顔を見ても私が自分の娘だと分かりもしない母。会っても仕方ないのに……。
建物の外から母のようすを見ていた。もしも病気でなかったら何か言ってくれたんだろうか。
どうして、こんなに遠くまで来てしまったんだろう。あの母の姿を見ても結局、私は一人なんだと改めて気付くだけなのに。
何時だろう。携帯を取り出して、もうこんな時間。しかも圏外。電源を切った。
あの人と出会ってしまった場所から少しでも遠くに離れたかっただけなのかもしれない。
有り得ないような現実から逃げたんだ。
帰らなきゃ。明日は仕事。私を待ってるのは仕事だけ。
おかあさん、さよなら。来た道を引き返す。帰ったら日付け替わってるよね。