彼・・・私の天使。
3
また何時間も車を走らせ、やっと帰って来た。駐車場に車を入れて部屋に戻ると天使がドアの前に座り込んでる。
「何してるの?」
「こんな時間まで、どこへ行ってたんですか? 携帯もつながらないし心配で来てみたら部屋にも居ない。どれだけ心配したと思ってるんですか?」
「携帯? あっ、ごめんなさい。電源切ってた。とにかく中に入って」
カギを開けて部屋に灯りを点けてドアが閉まった途端、天使に今までにない強い力で抱きしめられた。
「無事で良かった。何かあったんじゃないかと思って……」
天使のキレイな瞳が涙ぐんでいるように見えた。
「どこへ行ってたんですか?」
「母に会いに。施設に入ってるの。認知症で私を見ても分からないんだけどね」
「そうだったんですか。辛いですね。でもどうして急に? やっぱり何かあったんですね。僕には言えないようなことですか?」
彼には言わなければと思っても言葉が出て来なくて、彼は、まるで子供をあやすように髪をなでてくれていた。
「偶然、生涯二度と会いたくない人に会ったの」
「それって、もしかして昔の……」
私は小さく頷いた。彼は私をソファーに座らせ肩を抱いていてくれた。
「大丈夫ですか?」
「ごめんね。心配かけて。明日も劇団とバイトで忙しいんでしょう? もう大丈夫だから帰って休んで」
「帰れません。傍に居ます。迷惑なら帰りますけど……」
「ありがとう。一緒に居てくれる? 一人になりたくないの」
「横になって休んだらどうですか? 疲れたでしょう? 僕はここに居ますから安心して」
真っ白なふんわりしたワンピースに着替えてブランケットを持って、彼のところに行ったけれど……。
「お願いがあるの……。私の隣りで眠ってくれない?」
「えっ?」
驚いてる天使の手を取ってベッドまで連れて行った。ゆったり眠りたくてベッドはダブル。二人で眠っても狭くはない。
彼は、ちょっと戸惑いながらも隣りで眠ってくれた。私は彼の胸に顔をうずめて、彼の右手を両手で包んで、彼の左手は私の肩を抱いていてくれた。なかなか眠れなかったけど……。
天使の体温で癒されて眠れそうな気がした。
天使は眠れるのかな? こんなことをお願いして。
もしも……。このまま彼に抱かれても、それでも良かった。