彼・・・私の天使。
クリスマス
1
十月、十一月の結婚シーズンも、あっという間にスタッフ全員の協力で、一件のクレームもなく終えることが出来た。
美しい花嫁の微笑みは、どんな人をも幸せにする力を持っている。この仕事を始めて実感したことの一つだ。
そして十二月クリスマス。お陰さまでディナーは、ご予約で、ほとんど満席。でもランチは、まだいくらか余裕もあった。そんな二十四日のお昼、あの人が親子で現れた。
マネージャーがすぐに気付いて
「お嬢様、もしかしたら、あの方は」
私は、うなずき……。
「私が参ります。お嬢様は奥へ」
「ありがとう。でも大丈夫よ。あの子とお友達なの」
「お嬢様……」
「いらっしゃいませ」
「こんにちは。予約してないんですけど」
「はい。大丈夫ですよ。お二人様でしょうか?」
「はい」
私は後ろに立っている父親を見ないように
「どうぞ、こちらへ」
とテーブルへ案内した。
「きょうは僕が父にご馳走しようと思って。パン屋さんのオーナーからレストランをされてると聴いたので。僕のバイト代でも大丈夫なものを」
「ランチでしたら大丈夫ですよ。何がお好きかしら」
「パスタが好きなんですけど……」
「でしたら、サラダとコーヒーに、きょうは特別にデザートもお付けして、こちらのパスタセットでいかがでしょうか?」
「はい。じゃあそれで、お願いします」
安心したような彼の笑顔に
「はい。かしこまりました。少々お待ちくださいませ」
厨房に入ってマネージャーに
「これ、お願い」
「後は、私が」
「ちょっと出てくる」
私は裏口から外へ出た。
私の行動に気が付いた料理長がマネージャーに
「お嬢様、どうかされたのか?」
「実は、あの方が、お客様でみえて」
と渋い顔……。
「あの方って、まさか今頃? よくも平気な顔して来られたもんだな。お嬢様の代わりに五、六発ぶん殴ってやりたい」
マネージャーが周りを気にして
「料理長! 落ち着いて」
「お嬢様は大丈夫か?」
「ちょっと出てくるとおっしゃって……」
「心配だな……」