彼・・・私の天使。
年の瀬 過去の男
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クリスマス限定スイーツも大好評のうちに、忙しい毎日をスタッフ全員で乗り越え、毎年恒例のちょっと遅いクリスマス? 忘年会?
お店貸し切りで大いに盛り上がる。
お料理は若いシェフの腕の見せ所。「これ美味しい」で、お店の新メニューになったり食べて飲んで歌って、今年もお疲れさまでした。
いつの間にか私と料理長とマネージャーの三人で飲んでいた。この三人で話すとどうしても父の話になる。
もう知っている人も数人になってしまった。
時の流れを嫌でも感じてしまう。
飲んで騒いだ翌日に大掃除をして、三十一日から一月三日まで毎年お休み。日頃、日曜祝日も仕事で定休日は平日。お正月くらい家族でゆっくりして貰いたい。
とにかく三十一日は掃除と買い物はしないとね。後は三日間のんびりまったり過ごそうか。
どこか、ひなびた温泉旅館でも予約しとくんだったかなぁ、なんて考えながら、きょうは大掃除。
いつものスーツではなくジーンズで出勤。社長自ら率先して大掃除しないとね。
一年間お世話になったお店に感謝を込めて、来年も気持ち良く働けるように。スタッフ全員での大掃除も終わって仕事納め。
「お疲れさまでした。良いお年を」
スタッフと別れ、パン屋さんに寄って買い物して出てくると車から降りてきた人影に前を遮られた。
パン屋さんのバイトの男の子? ……の父親だった。
私は何も言わずに通り過ぎようとした。
「詩織。待ってくれないか。話がしたい」
「何の話? 私には話すことなんてないから」
「君に謝りたくて……。すまなかった」
「息子さんと食事に来たこと? だったら、もう二度と現れないでくれる」
「そうじゃなくて、君を傷つけたこと」
「こんなところを息子さんに見られたら、どうするつもり? すごく良い子だから、あの子を傷つけたくないの」
「僕が悪かった。すべて僕のせいだ。許してくれ」
「もう上海には戻らないの?」
「上海からは手を引いた。ずっとこっちに居る予定だ。あれから後悔ばかりしてる。君と別れて……」
「私は後悔してないわ。あんなに良い息子さんが居て、どうして後悔するの?」
「妻とは話し合った。あの子が二十歳になったら離婚するつもりだ」
「それを私に言って、どうするの?」
「やり直せないか? 君がまだ一人だと聴いて……。僕のせいなのか?」
「私が、あなたを待っていたとでも思ってるの? どこまで勝手な人なの。奥様と離婚しようがどうしようが私には関係ないわ。だけど息子さんを悲しませるようなことはしないで。あなたとは、もう何の関係もないけど、息子さんと私は友達だから」
「すまなかった。一つだけ聴かせてくれないか? 今、君は幸せなのか?」
「幸せよ。たぶん今が、一番幸せだと思う」
「そうか。それならいいんだ。時間を取らせて悪かった」
私は走り去る車を見送ることもなくマンションへと歩き始めた。長い間、胸の中につかえていた物が、やっと消えた。そんな気がしていた。