彼・・・私の天使。
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「素敵なお店ね」
「でしょう? 気に入ってるんです。イケマスヨ、ここのハンバーグ」
「じゃあ、それで」
「ここハンバーグ二つね。あとライスとビールも。あっ、良かったですか?」
「いいわよ。かなりの常連さん?」
「はい。しょっちゅう来てます」
向かい合ってテーブルを挟んで座って彼の笑顔を初めて見たような……。
可愛い顔してるんだ。今頃?
「マンションには、一人で住んでるの?」
「はい。実家は名古屋です。それなりに有名な老舗の和菓子屋なんですよ。兄が後を継いでいるんで、僕は自由の身なんです」
「お兄さまと二人兄弟?」
「あっいえ、姉が一人。もう嫁いでますけど」
「三人兄弟かぁ、羨ましいな」
「姉妹いないんですか?」
「一人娘。あぁ、もう娘じゃないわね」
「そんなぁ、きれいな方だなって思ってました」
…………オイッ! 私! こんな可愛い坊やに、そんなこと言われて喜ぶんじゃないの。
美味しそうな匂いと一緒に、ハンバーグが運ばれて来た。ジュージュー言ってる。
「あっ、気を付けて。脂が飛びますよ。服、汚したら大変だ」
「大丈夫よ。そんな、お高い物は着てないから」
「そんな事ないですよ。いつも趣味の良い上品な物、着てるじゃないですか」
「えっ? あぁ、でも仕事上、仕方ないのよ。それなりにしてないとね」
「じゃあ乾杯しましょう」
「何に?」
「う~ん、初めての食事に」
そう言って笑った彼が何でだろう、天使か何かに見えてしまったのは……。
食事は誰かと、おしゃべりしながら楽しい気分で食べると美味しいのよね。
子供の頃よく食事中に叱られて、せっかく頬張った大好きな物でも泣くと、もう二度と食べたくないくらい大嫌いになる。
レストラン・オーナーの父が、そんな事も知らないのかと酷く寂しい気持ちになった。
大人は勝手だ。そう思いながら生きて来て、その大人って立場になってしまった。今は新メニューの試食など食べる事が仕事。
天使と美味しいハンバーグを食べて久しぶりに楽しい食事をした気がした。
「ごちそうさま。割り勘で良かったのに」
「ダメですよ。僕が誘ったんですから」
「じゃあ、次は奢らせてね」
「楽しみにしてます。あっ、携帯の番号とアドレス教えてもらえますか?」
「そうね。奢らなきゃいけないものね」
お互いの携帯番号とアドレスを教え合って「じゃあね」と天使と別れた。