彼・・・私の天使。
お正月
1
お正月番組を見ていたら晴れ着姿のタレントさんたち。
そういえば私の着物どうなってる? シミになってないかな?
する事もないし着物の手入れでもしよう。お振袖、これはもう着る事もないわね。演歌歌手じゃないんだから。訪問着、付け下げ、小紋、袋帯、名古屋帯、帯揚げ、帯締め、伊達襟。袖は通してないけれど、防虫剤だけは入れて置いたから大丈夫みたい。良かった。
昔、母と呉服屋さんに行って仕立てた、お気に入りの着物たち。今となっては思い出の品。
眺めていたら久しぶりに着てみたくなった。髪を軽く上げて、淡いクリーム色の綸子地の小花柄の小紋。鏡を見ながら名古屋帯をお太鼓に結ぶ。帯揚げ、帯締め、覚えてるもんなのねぇと自分に感心しながら。
すると玄関のチャイムの音。えっ? 誰?
「はい」
「僕です。瞬です」
ドアを開ける。
「どうしたの?」
「詩織さんこそ、どうしたんですか?」
瞬君、すごく驚いてる様子……。
「あぁ、これ? ちょっと着てみたくなっただけよ。バイトじゃなかったの?」
「忘れ物を取りに来て、ついでに顔を見て行こうかなって思って」
「時間あるの?」
「僕の授業は午後からだから、お昼までに戻れば大丈夫なんですけど」
「じゃあ、どうぞ。入って」
「はい。おじゃまします」
「コーヒーでも入れる? それとも緑茶?」
「なんか、きょうは緑茶の気分かな」
「そう?」
緑茶を入れて瞬君の前に置き、隣に座った。
「着物姿、初めて見るから。綺麗です」
瞬君が私を見てる。
「着物が?」
「着物の似合う詩織さんが」
「ありがと。お世辞でも嬉しいわ」
「お世辞なんか言いません。あなたが、どんなに綺麗か知ってるから。抱きしめてもいいですか?」
「どうして聴くの?」
「着物、シワになっちゃうかなとか……」
「そんなに何時間も、ぎゅってしてくれるの?」
ちょっと意地悪に訊いてみた。
「いいですよ」
笑顔で答える瞬君。
「時間ないくせに……」
私も笑顔になる。
天使は私をそっと抱きしめてくれた。彼のドキドキが伝わって来る。着て良かったかも……。
「着物姿見られて良かった。すごく残念ですけど……。そろそろ戻らなきゃ」
天使の視線に私がドキドキしてる。
「みんなが先生を待ってるわよ」
「あっ、明日の夜、もしかしたら帰れるかもしれない」
「そうなの? じゃあメールして、お鍋の用意して待ってるから」
「お鍋か……。絶対、帰って来よう。じゃあ、戻ります」
「気をつけて、頑張ってね」