彼・・・私の天使。


 食器を片付けて、彼女に風邪薬も飲ませて
「じゃあ、行ってきます」
 って言ったら部屋のカギを渡された。

「薬のせいで熟睡しちゃうからカギかけて行ってくれる?」

 玄関のカギをかけてポケットにしまう。コンビニに寄って買い物。マンションに戻って洗濯機を回しながら掃除、明日の授業の資料を揃えて、乾燥機に洗濯物を放り込む。

 何か食べたいものがないか聴いてくれば良かった。今頃ぐっすり眠っているんだろうなぁ。早く治ってくれないと明日から仕事だから、彼女が辛いから。

 キレイな寝顔を思い出して、とても幸せな気持ちになる。愛してるって言葉、何万回言っても、たぶん足りない。

 さぁ、彼女の部屋に戻ろう。途中スーパーに寄って何か買って行こう。詩織さん、何が好きなんだろう? 体調が悪くても食べられるものって何だろう? 考えてみたら知らないことばかり。

 彼女は、いつも僕の話は楽しそうに聴いてくれるけれど、自分のことはあまり話さない。

 彼女が笑顔で傍に居てくれるだけで充分だったから。彼女の華奢な体を抱きしめるだけで幸せだったから。彼女のやわらかな白い肌を一人占めする悦びを感じていたから……。
 もう誰にも渡さない。彼女は僕が必ず幸せにするから。

 そうだ。フルーツなら……。真っ赤なイチゴを買って行こう。


 彼女のマンションに戻りカギを開ける。そっと起こさないように部屋に入ってイチゴを冷蔵庫に入れ、彼女のベッドへ。よく眠ってる。

 渡されたカギ、このまま持っていよう。返して欲しいと言われるまで。
 僕を男として認めてくれている。信頼してくれている。素直に嬉しかった。
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