彼・・・私の天使。
過去の恋愛


 実は、さっきのお店から私のマンションまでもそれほど遠くない。

 夏が終わりそうな今頃。昼間は暑くても夜は風が冷たくて心地好い。雨も上がって虹でも見えたら素敵なのに……。夜は見えないわね。子供みたいな事を考えながら、フッと自分が可笑しかった。

「ただいま」

 誰が返事をしてくれる訳でもないけれど、いつものクセ。でもきょうの「ただいま」は元気だね。天使のせいかな……。

 シャワーを浴びて出てきたら天使からメールが来ていた。
『今夜は楽しかったです。また誘ってもいいですか? おやすみなさい 』

 もっと若くて可愛い子を誘えばいいのに。内心は嬉しかったけど、この歳になると変に身構えてしまう。今更、恋愛ドウコウもゴメンだし。そう考えて。
 あの天使と私が恋愛? アリエナイシ……。



 恋愛。そんなものに費やすエネルギーは、もう私には残っていない。あの時すべて使い果たした。

 親同士が友人で子供の頃から知っていた。別に許婚って訳じゃなかったけれど、いつの頃からか、お互い意識するようになっていた。
 その人は一歳年上で勉強もスポーツも出来て性格も穏やかで真面目なリーダーになれる人だった。親同士も望んでいた事もあって、みんなに祝福されて婚約した。

 彼の父親の経営する会社が上海に進出する事になり、プロジェクトチームのリーダーを任され二年の海外赴任の後、結婚するはずだった。

 二年。私は長いとは思わなかった。お料理を習ったりマナー教室に通ったり。結婚に向けての準備もあった。
 三ヶ月に一度は仕事の状況報告に帰って来たし、その度に会えたし幸せな時間を過ごしていた。
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