彼・・・私の天使。


「三つも食べちゃったよ。どうしよう」

「そのあたり走ってカロリー消費してきたら? きょうバイトは何時?」

「きょうは休みなんだ。バイトは三月で辞めようと思ってる。今の生徒の受験が終わったら」

「そう……」 

「劇団の方も四月からは準劇団員になれるし」

「そう……」

「どうしたの? 急に静かになって」

「ううん。何でもない」 

「だからって別に僕は変わらないし」

「そうね。じゃあ晩ご飯、何にしようか」

「お腹空いてないよ。ケーキよりもっと甘いものが欲しい」

 天使から甘い香りのキス。彼の唇が離れた時……。

「抱いて……」

 彼と私は、まだ明るい部屋のベッドで愛し合った。
 私のこの体を天使に覚えていて欲しかった。
 彼の唇の感触を手の動きを体温を何もかも体に刻み付けておきたかった。

「瞬、愛してる。何があっても、ずっと愛してる……」

「詩織、愛してる。死んでも離さない。僕のものだから」

 天使の笑顔と優しさと激しさをすべて……。



 彼の胸に抱かれたまま私は天使の寝顔を見ていた。柔らかな髪も整った顔も綺麗な唇も忘れないように。
 会えなくなっても何時でも思い出せるように……。

 さくら色の口紅を付けてあげたいくらい綺麗な形の唇。女の子みたい。指でそっと触れてみた。

 天使が目を覚ました。いつもの笑顔……。

「嬉しいよ。初めて愛してるって言ってくれた。あなたは僕の腕の中に居る。もう離さない。どんなことがあっても誰にも渡さない。あなたは僕のものなんだって思っていいんだよね?」

「どこにもいかない。そう言ったはずよ」



 もう誰も愛さない。愛せない。そう思って生きて来た。愛しても結局、傷つくだけ。

 なのに私は彼の一途な気持ちに真っ直ぐな想いに……。
 頑なに拒み続けてきたもの。
 人を愛する気持ちをすべてを許しあう悦びを教えてくれた私の天使。

 あなただけをずっと愛してる。忘れないで……。


「来週センター試験だから、しばらく忙しくなるけど」

「うん。もう心配しなくていいのよね?」

「会いに来る時間取れないと思うけど、大丈夫だから」

「うん」
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