彼・・・私の天使。
別れの手紙
1
それから数日後。私は内容証明の件で事務所を訪ねた。
「出しておいたわよ。これが三通の中の一通。差出人の分ね」
「はい。ありがとうございました。お手数掛けました」
事務所を出ると道の向こう側に晴れ着姿のきれいなお嬢さん。そうか。きょうは成人の日。
その隣を仲良さそうに歩いている天使を見付けた。
劇団の稽古場、事務所の近くにあったのよね。たぶん劇団の子ね。
私が車に乗り込む時、天使が私に気付いたようだった。私はそのまま車を出した。
その日の夜遅く天使から着信。
「はい」
「うん……」
「何?」
「きょう劇団で、団長から夏のドラマの出演の話があって、まだ決まった訳じゃないんだけど。夜九時のドラマなんだ」
「そう。決まるといいわね」
「うん……」
「何だか嬉しそうじゃないのね?」
「そうじゃないけど、また電話する」
私は来るべき時が来た。そう感じていた……。
一週間後、センター試験も終わった翌日。朝早く彼のマンションを訪ねた。チャイムを押す。ドアが開いて
「どうしたの? こんなに早く……」
「ちょっといい? 用件はすぐ済むから」
「いいけど……。入って」
「一度しか言わないから、ちゃんと聴いてね。もうあなたには会わない。そう言いに来たの」
「どういうこと? 何を言い出すんだよ……」
「ここに、二百万あるわ。あなたが好きなように使って」
「お金? なぜ僕に? どういうつもりなんだよ」
「どう思ってくれてもいいわ。じゃあ」
彼は私の腕をつかんで抱き寄せた。
その腕を解いて私は部屋を出た。そして急いでエレベーターに乗った。
エレベーターの中は、このマンションの住人らしい人たちで混んでいた。七階から乗って、それぞれの階で止まり思ったよりずっと時間が掛かった。
もし一人だったら泣いていたかもしれない……。そう思うと丁度良かったんだ。
やっと一階に着いてエレベーターが開いた。そこには天使が居た。見るからに階段を駆け下りたらしい酷く苦しそうに息をする彼が……。