彼・・・私の天使。
ドラマ

1


 良かった。兄貴に彼女を会わせて。詩織さんには、きょう連れて行ったのが僕の兄貴だとは言わないでいよう。言ったら次に連れて行くのが母さんだとバレる。

 お正月に名古屋に一緒に行って欲しいと言ったら、あの時、彼女熱を出して、そのままになっていたけれど明らかに躊躇してた戸惑ってた。


 その夜、彼女が帰った頃を見計らって電話を入れた。
「きょうは、ありがとう。会えて嬉しかった」

「私も、元気な姿を見られて良かった」

「料理もワインも最高だって言ってたよ」

「お連れの方が?」

「うん。またぜひ食事に行くって言ってたから」

「ありがとう。お得意様を増やしてくれたのね」

「まあ、そうかなぁ」

「何? それ」

「本当は、すぐにでもそこへ行きたい。あなたの体温を感じたい。ごめん。分かってる。僕のわがままだよね」

「ううん」

「また電話してもいい? 声を聴かせて欲しい」

「でもすぐに忙しくなって電話する時間もなくなるわよ」

「そしたらメールで我慢する」

「新人俳優さん、間違っても撮影現場から電話したりしないでね」

「分かってるよ」

「会えなくても気持ちが繋がっていれば、いつでも思い出せるから」

「僕のことを?」

「そうよ。あったかい腕の中とか、髪をなでられた感触とか」

「僕も思い出せるよ。あなたのやわらかい白い胸とか……」

「もう」

「本当にキレイだから忘れられないよ。今夜、夢の中で抱きしめるから」

「じゃあ、私の夢にも出て来てくれる?」

「ギャラ高いよ!」

「あっ、そんなこと言うと今夜のディナー、請求書送るわよ」

「それだけは勘弁して」
 お互い笑い合って
「じゃあ、また、おやすみ」
 と電話を切った。
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