彼・・・私の天使。
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五月に入って撮影が始まった。慣れない事ばかりで緊張する僕に、監督が一つ一つ丁寧に教えてくれた。
「このドラマは君が、あらゆる意味で鍵を握っている。期待しているから頑張って。分からない事は何でもいいから聴いてくれ」
もっと怖い人ってイメージを持っていた監督がとても優しく接してくれて、すごく気が楽になった。
撮影は新人の僕が迷惑を掛ける事もなく順調に進んでいった。今までテレビや映画でしか見たことのない有名な俳優さんたちと僕が同じ現場で仕事をしている事が、なんだか不思議だった。
雲の上の人だと思っていた大御所が、とても気さくに話しかけてくださったり、庶民的なイメージの俳優さんが、とてもストイックな方だったり。僕にとって、すべてが勉強だった。
演じられる喜びも、だんだん分かってきて、若い俳優さんたち、スタッフの皆さんとも仲良く話せるようになった。ドラマの撮影は、お天気にも恵まれ順調に進んでいた。
それと並行して雑誌の取材などの仕事も入って来た。
僕は、まったくの新人なのに今回の役は主演の一人でプロフィールなども載せられる。身長、体重、靴のサイズ、生年月日、血液型、星座、出身地、所属劇団、実家は名古屋の老舗の和菓子屋。予想はしてたけど。出身大学、数学教師の免許、この春まで塾の講師をしていたことまで。それから好きな女性のタイプ、趣味、好きな食べ物、飲み物。
笑顔を作り写真撮影、衣装替え。これを各社、本当に大変だ。分かっていたつもりだったけど演技だけしていればいいってもんじゃない。
放送が近付くとテレビ出演、バラエティ番組、番宣。出なきゃいけないんだ。大丈夫か? 僕……。
慣れない事の連続で、さすがに体力には自信のあった僕も疲れが出て来た。撮影二十六時開始予定なんて時間があることも初めて知った。
きょうは珍しく二十四時前にマンションに帰れた。彼女に電話する。