彼・・・私の天使。
3
「今、帰ったの? お疲れさま。大丈夫? 声が疲れてるけど」
「うん。慣れない事が多過ぎて、ちょっとね」
「もう弱音を吐くつもり? まだ始まったばかりでしょ?」
「そうだけど……」
「夢を叶えるって大変な事なのよ。体力には自信があるんじゃなかった?」
「もうちょっと優しくしてよ……」
「そうしてあげたいけど、このドラマ一本で君の評価が決まるのよ。役者として生きる道を選んだんでしょう? ちゃんとやりきって見せて」
「うん。分かってる。そうしないと、あなたを迎えに行けないから」
「体には気を付けてね。ちゃんと寝ないと持たないわよ」
「明日は午後からだから、しっかり寝られるから大丈夫」
「うん。じゃあね。おやすみなさい」
ゆっくり眠って疲れを癒して撮影頑張ってね。傍に居てあげたいけど私に出来ること何でもしてあげたいけど、今は優しく厳しく見守る母親みたいな気持ちでいなければ。
天使が自分で選んだ道だから夢を叶えさせてあげたい。ただ流行の波に乗って消えていくような儚い存在ではなく歳を重ねるごとに輝いていけるような本物の役者として生きて欲しい。
六月に入ってドラマの制作発表の記者会見の場に人気俳優さんと並んで笑顔の天使の姿を見付けた。
テレビ局もとても力を入れて期待していると分かる扱いだった。
七月に入ってドラマの放送が始まった。私は毎週録画しているものの観られないでいた。どんな顔して観たらいいのか分からない。
天使の劇団合格を定休日のお店で祝った時に、お料理を作ってくれたシェフと手伝ってくれたウェイトレスの子が
「あの時のお客さま俳優さんだったんですね」
「ドラマすごくおもしろいです。とても素敵な役ですよ」
と毎週、筋書きを教えてくれる。だから天使が忙しい合い間にくれるメールにも、なんとか話は合わせられるけれど……。
視聴率も好調なようで、CMのお話も何本か来ているらしくトーク番組の出演予定も。
世間の彼の認知度も確実に上がって来ていた。ドラマ一本で……。