彼・・・私の天使。


 そして私は思わず声をあげて笑ってしまいそうなのを堪えていた。
 今、何時だろう。まだ夜明け前。気持ち良さそうに眠る天使の寝顔を見ていた。

 眠らせてくれないんじゃなかった? 体で分からせてくれるんじゃなかったの? 

 そんなこと言っておいて、この寝顔の可愛さとのギャップに、やっぱり笑ってしまいそう。

 昨夜から何回「愛してる」って言われたんだろう。ドラマのセリフの練習だったりして……。ううん。私には分かるから。少なくても今の君の気持ちに嘘はないこと……。

 君と私の未来に待っているものが、もしも別れだったとしても、今は君の「愛してる」に私を委ねようと決めていた。



 カーテンの向こうが明るくなって来ていた。私は眠った。ほんの少し。目覚めると子供のような寝息をたてて天使はよく眠っていた。
 起こさないように、そっとベッドを脱け出しシャワーを浴び、濃い目のコーヒーを入れてソファーにもたれていた。

 昨夜、彼にあんなに激しくそして優しく愛された体。ミタサレテ、ウルオサレテ、どうしようもなく女なんだと気付かされる。可愛い顔をして眠っている、あの天使に……。

 彼と愛し合うようになって自分の体が愛おしいと思えるようになった。友人が言った「そのキレイな体、誰の目にも触れさせずにお墓に持って行くのだけは止めなさいよね」その言葉の意味が今の私になら分かる。

 コーヒーのおかわりをしようとキッチンに立ったら、そっと近付いてきた天使に後ろから、ぎゅっと胸の辺りを抱きしめられた。

「痛いっ! 」

「えっ? どうしたの? 僕、昨夜何か酷いことした? 」

「ううん。違うの。酷いことなんてされてないから。君は男の子だから分からないでしょうけど女の子には一ヶ月周期で、いろんな日があるの。お腹が痛かったり、頭痛がしたり、胸がヒリヒリ痛かったり」

「昨夜は何ともなかったの?」

「うん。大丈夫」

「僕、あなたを抱きたい。それだけで、ごめん。あなたの体のことまで考えてなかった。赤ちゃん出来る可能性だってあるんだよね」

「ううん。それはないから。君が私の所に来る日は、なぜかその可能性のない日ばかりだったから」

「じゃあ、今、赤ちゃん出来てる可能性は?」

「う~ん。ゼロかな?」

「もしも僕たちの赤ちゃんが出来たら産んでくれる? 産んで欲しい」

「えっ?」

「無理かな? あなたには仕事があるし」

「仕事もだけど……。私もうとっくに高齢出産の年齢過ぎてるから……」

「ごめん。あなたに負担を掛けるだけだよね。僕は詩織さんが居てくれるだけで充分だから、忘れて」

 天使に優しくそっと抱きしめられた。
「お腹空いた。何か食べさせて」

「サンドイッチでいい?」

「うん」

「じゃあ作るね。ちょっと待ってて」
 サンドイッチを作りながら気持ちは、やっぱり複雑だった……。
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