彼・・・私の天使。


「三人前、頼んだわよ」 

「えっ?」

「あのお鮨屋さん上品だから食べられるわよ。あっ、そうだ」
 玄関に行って
「これでOK!」

「何してたの?」
 不思議そうな顔で天使が聴いた。

「君のスニーカーを仕舞って、私のサンダルとミュールを出したの」

「何で?」

「女三人で食べるって思われるように」

「何か楽しんでない?」

「何でも楽しまなきゃ。同じ二十四時間なら楽しい方がいいでしょ? 眉間にシワ寄せてても笑ってても同じ二十四時間よ」

「あなたには、ほんと敵わない」

 そして出前が届いた。
「さぁ、食べよう」 

「美味しそう。うん。美味しい!」 

「でしょ?」

「これなら二人前、行けそう」
 しっかり二人前をお腹に納めて
「美味しかった。こんな美味しいお鮨、久しぶり」

「そう。良かった」

「いつか一緒に行こうね。お鮨食べに。二人でカウンター席で僕がご馳走するから」

「楽しみにしてるから」 

「うん」

「撮影の時は局のお弁当なの?」

「ほとんどそうだけど時々先輩が鰻とか差し入れをしてくれるんだ」

「そうなの。優しい先輩に恵まれたのね」

「うん。俳優さんだけじゃなくて、この頃、美術さんとか照明さんとかスタッフさんと仲良しなんだ。それに監督さんがすごく良い人で良くしてもらってる」

「そう。良かった。本当は心配だったの」

「大丈夫だよ。ちゃんと頑張ってるから心配しないで」

 そのまま二人で話し続けて太陽の沈む時刻の遅いこの季節でも、すっかり暗くなっていた。

「休みも、もう終わりか」
 天使の寂しそうな顔。

「楽しい撮影が待っているんでしょ?」 

「楽しいけど大変なんだよ」

「大変じゃない仕事なんてないと思うけど」 

「そうだね」

「夜は何を食べましょうか?」 

「う~ん。パスタがいい」

「パスタ? そうねぇ。トマトの冷製パスタは? トマト嫌いじゃない?」

「大好き」 

「じゃあそれでいい?」 

「うん。手伝う」

 キッチンで細めのパスタを茹でて、トマトを火剥きして切って、ツナ缶をオイルごと。スライスしたきゅうり、オニオン、あとは、塩、コショー、マスタード、ちょっとお醤油。混ぜ合わせて冷蔵庫で冷やして完成。

「どう?」 

「うん。美味しい。簡単に出来るんだ」

「一人でも作れそうでしょ?」 

「作れそうだけど……。また作って」

「いつでも作ってあげるわよ」
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