彼・・・私の天使。
嫉妬
1
ドアを開けて外に出た。そのまま誰にも会わずにマンションへ帰った。部屋には灯りが点いたまま。エアコンを点けてシャワーを浴びに行った。
濡れた髪をバスタオルで拭きながら出て来てエアコンの涼しい風に当たりながら携帯のメモリーを押す。
「あっ、兄貴? 僕だけど」
「おう。元気か?」
「うん。元気だよ。それより母さんの同窓会まだなの?」
「あぁ、それなんだけど実は、お前には言うなって口止めされてて……」
「何か、あったの?」
「一昨日、母さんが階段から落ちて、じん帯を痛めて……」
「えっ? 大丈夫なの?」
「元気だけど松葉杖だから。同窓会は来週なんだけど松葉杖じゃあな。母さん悔しがってたけど仕方ないよ」
「そうなんだ。で、母さん、どうなの?」
「母さん位の歳だと骨折する人が多いらしいんだけど、じん帯痛めるだけで済むなんて若いって整形外科の先生に言われて喜んでるよ」
「家の事とか大変じゃないの? 母さん動けないと」
「それが、姉貴が子供たち連れて来てるよ。夏休みで良かったって八月いっぱい居るつもりらしいよ」
「そっか。姉さんが居てくれれば安心だね」
「うるさくて大変なんだぞ。チビ姫たちも……」
「ちゃんとご飯を作ってもらえるんだから我慢だよ」
「そういえばチビ姫たち、お前のドラマ見て、ちい兄ちゃんカッコイイって。帰って来たらサインさせられるぞ」
「当分帰れないから大丈夫だよ」
母さんのこと兄貴に頼んで電話を切った。
さぁ、もう寝よう。明日は早いんだから。ベッドに入った。
久しぶりに一緒に過ごせた。ほとんど二十四時間。彼女の温もりを思い出す。僕の腕の中にいる詩織さんの僕だけにしか見せない表情を声を……。
そう考えて、ふと別れた婚約者の存在を思った。僕よりも先に彼女を知っていた。高一から二十三歳で別れるまで付き合っていた。詩織さんを傷付けて去った、彼女が二度と会いたくないと言っていた男に僕は嫉妬してるのか?
もしも婚約者が裏切らなかったら間違いなく二人は結婚してるはず。子供も居たんだろうか。
そうしたら彼女と僕は出会う接点が見付からない。胸の中がザワザワして眠れなくなってしまった。携帯を取って彼女に電話した。