彼・・・私の天使。
2
「おはよう」
「おはようございます……」
うん? どうしたの? みんなの態度がいつもと違うような……気のせい?
事務所で書類をチェックしていたら事務の女の子が
「あのう……。社長」
「何?」
「元気出してくださいね。社長くらい若くて、お綺麗なら、いくらでも素敵な方が現れますから」
「えっ? 何の話?」
「今朝テレビで見たんです。スポーツ紙の……」
「どうして知ってるの?」
「あの、みんな知ってますけど……」
「みんなって? みんな?」
「はい。料理長もマネージャーもみんなですけど」
「それで何だか変だったのね。でもあれは違うの。今朝、電話くれたから」
「そうなんですか? 良かった。みんなに知らせて来ます」
「えっ?」
ありがとう。みんな、心配してくれて。
それから間もなく最終話が放送され記録的な高視聴率だったと知らされた。
天使は息つく暇もなく十月から放送されるドラマの撮影と十一月の劇団の公演の稽古も始まり多忙を極めていた。
あれからスポーツ紙に載ることはなかったけれど……。
九月ももう終わる頃。仕事を終えてマンションに帰って何気なくテレビのスイッチを入れると天使の顔のアップ。美味しそうにビールを飲んでいる。CM始まったんだ。
間違いなく彼なんだけど別の人のような何とも言えない不思議な気持ちで見ていた。
十月に入って新しいドラマも始まった。そしてもう一つのCMも、チョコレートの。天使にはこっちの方が似合ってると密かに思っていた。
そして十一月。劇団の公演の初日前夜、天使から着信。
「すごく緊張してる」
「初舞台なのよね」
「うん。ちょっとした役でこれじゃあ、主役だったら気絶してるよ」
「あさっての定休日に観に行くから、倒れないで頑張っててよ」
「うん。詩織さんが来てくれるまで頑張る」
「その後も頑張ってくれないと。前に聴いた事あるんだけど大物歌手や有名舞台俳優と言われる方たちの共通点知ってる?」
「なに?」
「ものすごく緊張するんだって。震えが止まらなかったり舞台に出て行けなくて、マネージャーに背中を突き飛ばされるように押してもらってやっと出られるって」
「ええっ? 余計緊張するよ。どうしよう……」
「だから緊張するのは大物になれる証拠なの。分かった?」
「うん。自分にそう暗示をかけて頑張るよ。ありがとう」