彼・・・私の天使。


 医務室の前の廊下で若いイケメンが二人。

 啓君が
「僕、佐伯さんに水泳を教えてる高梨 啓といいます」

「あ、はい。僕は藤島 瞬です」

「あの、失礼ですけど彼女の恋人ですか?」

「えっ? あっ……いや……」

「分かりました。好きなんですね? でもライバル多いですよ。このジムにも彼女のファンたくさんいますから」

「そうなんですか? 知りませんでした」

「僕も、その一人ですから忘れないでください」

「えっ?」

 そんな会話をしながらも二人は笑顔だった。

     *

「廊下の男子。もう入っていいわよ」
 聴診器をポケットに仕舞いながら玲子がドアを開けて笑顔で言った。そして私に

「頭を打っているから二~三日は安静にしてて。痛みはそれくらいでなくなると思う。もし酷くなったり吐き気とかあるようなら受診して。私に連絡くれてもいいし」

「うん。ところで私、何にぶつかったの?」

 診察室に入って来た啓君が
「隣のコースを泳いでいた人が急に方向転換して」

「で、その方は?」

「大丈夫です。ピンピンしてますよ」

「そう。良かった」

「人の心配してる場合じゃないでしょう。あと十五分くらいで点滴終わるから帰って休みなさいね。あぁ、後で行こうか? それとも、お邪魔かな。さぁ、啓君行くわよ。仕事でしょ」

「あぁ、はい」


 二人が居なくなって急に静かになった……。

「ごめんね。迷惑掛けて」 

「迷惑なんて思ったら来ませんよ」
 瞬君は笑顔で言った。

「ありがとう」 

「家まで送ります」



 点滴が終わって更衣室で着替えて出て来た私は車で来ていたことを思い出した。
「そうだ。車で来てたんだ」 

「運転しましょうか?」

「お願いしていい?」 

「家まで送るって言ったでしょう」

 駐車場まで歩きながら、いろんな人から「大丈夫?」と声をかけられ

「ありがとう。大丈夫よ」
 と答えながら……。恥ずかしい……。 

「やっぱり本当なんだ」
 と瞬君が……。

「えっ?」 

「いえ。何でもないです」

 ジムの駐車場に停めた車は紺のアウディ。

「良い車に乗ってるんですね」

「そんなことないのよ。仕事で必要だから」
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