彼・・・私の天使。
2
天使が目覚めた。
「おはよう」
毛布から出ていた肩にキスされた。
「おはよう。もう起きたの? きょう早かった?」
「ううん。お昼前に劇場に入ればいいから。今夜から舞台が終わったらドラマの撮影なんだ」
「そう。忙しいのね。お昼前って、お昼ご飯はどうするの?」
「出前を取ったり、お弁当買ったり」
「お弁当? 作ろうか?」
「本当に? 昨日、結婚してる先輩が奥さんの手作り弁当持って来てて、みんなに羨ましがられてたよ」
「お弁当を作ってくれる人が居るってバレたらマズイ?」
「母さんが来てるとか何とか言えば大丈夫だよ」
「そうね。でも私は君のお母さんじゃないわよ」
「そんなこと分かってる。母さんに、こんなことしないから……」
天使の唇が下りて来て愛されてると実感出来る天使の愛情表現。
じゃあ私は愛カノ弁当を作ろう。
「お弁当の中身は何がいい?」
「から揚げと玉子焼きと……。フライドポテト」
「やっぱり」
「子供だって言いたそうだけど」
「私も好きよ。後はサラダと煮物。あっ海老があった。海老フライ?」
「ご馳走だね。お昼が楽しみ。あっねぇ、きょうの席どのあたり?」
「えっとね。九列目の二十九番だったかな」
「分かった。それとこれ来週の定休日のチケット」
「いいの?」
「三列目だよ」
「ありがとう。必ず行くね」
そして私は心を込めて美味しいお弁当を作った。
「はい。お弁当、出来たわよ」
「ありがとう。じゃあ、そろそろ行こうかな」
「うん。後でね。でも九列目なんて舞台から見えるの?」
「それが意外と見えるんだよ」
「初舞台にしては余裕あるのね」
「まあね。嘘……。昨日はそんな余裕なかった」
「じゃあ、きょうは二日目の余裕を見せてもらいましょうか?」
「どこに居ても、あなただけは見付けられると思う。僕の一番大切な人だから」
抱きしめられて、おでこにキス。
「いってきます」
「あっ、外、明るいけど見付からない?」
「そのためのキャップとサングラス。大丈夫だよ。駐車場まですぐだし」
「気を付けて。頑張ってね。いってらっしゃい」