彼・・・私の天使。
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お母さまの私を見る目がとても温かくて……。
「少し聴かせてもらっていいかしら?」
「はい」
「レストランをされているとあの子の兄から聴きました。亡くなったお父様の後を継がれたそうね。何歳の時?」
「二十六歳の時です」
「そう。そんなにお若いのに大変だったでしょう?」
「いいえ。父の代から居てくれてるスタッフが支えてくれましたから」
「でもこんな時代に二店舗も。私たちも店をやっておりますから良く分かりますよ」
とお父さま。
「瞬が東京の大学に行きたいと言った時、好きな数学の教師の免許を取るのを条件に許しました。教員免許を取るのは大変だから遊んでる時間もないだろうと思って。ところが今度は役者になりたいと……。三十歳までに叶えられなければ名古屋に戻る約束で。でもあの子、叶えてしまいましたね。今の劇団に入ったのも、あなたに出会ってからなんですね。あなたのような方が、あの子の傍に居てくれたから」
「いいえ。そんな……」
「末っ子でワガママに育ててしまって甘えん坊だし、あなたのような大人の女性が必要なんだと思います。これからも息子を瞬のことよろしくお願いしますね」
「えっ? あ、いえ、こちらこそ。よろしくお願いします」
「やっぱり私の息子だけあって女性を選ぶ目は確かだね。ねぇ、母さん」
「息子は母親に似た人を選ぶって言いますからね」
「そういうことにしておこうか」
お父さまが笑いながら
「さぁ、食べましょう。安心したら、お腹が空いたな」
「はい。いただきます」
それから彼の子供の頃の話とか楽しくお話出来て、私は天使のご両親にとても温かく迎えてもらえた。
「あなたも瞬も忙しいでしょうけど、ぜひ名古屋にも遊びに来てくださいね」
「ありがとうございます」
ご夫妻は今夜宿泊する近くのホテルに仲良く歩いて行かれた。天使から今だに仲良しだと聴いていた通り、とても素敵なご夫妻だと羨ましく思った。
後ろ姿を見送りながら気持ちが温かくなるのを感じていた。