ひと雫おちたなら
目まぐるしく変わる注文内容に、吹き出す冷や汗を拭いながらも「はい、はい、はい」を繰り返しながら手元にあるハンディーをピッピッと鳴らす。
ボタンを押しても反応しない時があり、動揺しているうちに次の注文を言われるのでさらに焦る。
結局、この大学生みたいな十何人の男女混合グループは何のお酒をいくつ頼んだのだろう。もはや分からなくなっていた。
「お姉さん、大丈夫?」
クスクスとからかうような視線が私を舐め回す。
くそぅ、いい笑いものだ!
すると後ろから冷静な声。
「生ビール五つ、ハイボール一つ、コークハイ一つ、カシスオレンジ一つ、カルアミルク二つ、レモンサワー三つ、烏龍茶一つ、ジントニック一つ」
「ほえぇ…」
変な呻き声をつい漏らす。
言われた通りにハンディーに打ち込んだ。
満足して注文内容を確認しようとしたら、肩に手を置かれた。
「お客様、おそらくおひとり誰かまだご注文いただいてません。どなたでしょうか」
えっ。本当だ。
注文された数に対して人数の方が一人多い。
「誰だよ、適当に生頼んでおくからな!」
飲みたくて仕方なさそうな男の子が、「生追加!」と私を見る。
ここでやっと注文内容を懸命に読み上げるものの、注文した本人たちはまったく聞いていない。意味はあるのだろうか?
くるりと後ろを見ると、睦くんと目が合う。
ふわふわの長い前髪の隙間で、彼の目が細められるのが見えた。
「どうせ聞いてないから大丈夫」
「あ…分かった」
膝をついていた座敷席から降りると「早く持ってきてよー!」と野次られる。
「は、はい、少々お待…」
「今すぐ持ってきますね」