ひと雫おちたなら
ある日の夕方、私の携帯に一本の電話があった。
冷房の効いた事務所で仕事をする時は、長袖のカーディガンが欠かせない。肌触りのいいコットンの袖をまくり上げたまま、パソコンを睨むように目を細める。
狭い事務所で決まらないレイアウトに頭を悩ませること一時間。
ちょうどいいタイミングで着信があったため、ディスプレイに浮かんだ相手の名前を確認してすぐに電話をとった。
「もしもし」
『あ、ゆかり?』
電話の主は、大学時代からの友達だった。
「瑠美から連絡くれるなんて、なんか不思議」
出不精の瑠美を外へ誘い出すのは、いつも私。
連絡をするのも私からが多いので、今日みたいに電話なんかが来ると少しばかり驚く。
『いま仕事中でしょ?電話してても大丈夫?』
一応、とばかりに気遣いを見せた瑠美に、私はくすりと笑った。
各々のデスクでそれぞれの仕事をしている、事務所の面々をちらりと見渡す。
私のようにどこかの誰かと電話しながら作業をしている人が二人、明らかに仕事とは関係なさそうに携帯をいじっている人が一人、ちょっとウトウトしている人が一人、席を外している人が三人。
仕事が仕事なだけに、自由な社風である。
パソコンのキーボードに置いていた右手を外し、そばにあったボールペンをくるくると回した。が、すぐにポロッと落ちてしまった。
もう一度ペン回しにトライ。