ひと雫おちたなら
2 一件のメール
きっとどこかで元気にやっているだろう。
どんな仕事をして、どんな生活を送っているのか、気にならないといえば嘘になるけれど。
瑠美から絵のことを聞くまで、睦くんのことはあまり思い出すこともなくなっていたのは事実。
なにしろ八年前のことだ、毎日考えろっていう方が難しい話である。
少しだけ残業をしてから会社を出たら、さすがにもう日は沈んで昼間の刺すような暑さはなりを潜めていた。
その代わり、じっとりとした不快な湿気の多い蒸し暑さが肌にまとわりつく。
どちらにせよこの季節はどんな服を着ていても暑い。
たぶん、裸で歩いたって暑さがつらいのは変わらないだろう。
速めの歩調でヒールを鳴らしながら、まっすぐ駅には向かわずに近くのCDショップへと足を運んだ。
CDの売れ行きが悪いこのご時世、私もなかなかこうしてCDを手に取って見ることなど最近はなかったのだが、久しぶりに来てみると学生時代を思い出すようだった。
店内のクラシックコーナーで足を止め、うろうろ行ったり来たりをくりかえしたのちようやく見つけた、エリック・サティの曲が収録されたCD。
クラシックには詳しくないが、たぶんそこそこ名の知れているであろう日本人ピアノ演奏者の写真も添えられている。
「ジムノペディ 第1番」と「ジュ・トゥ・ヴ」が入っていることを確認し、レジへ持っていった。