ひと雫おちたなら
うちの会社のデザイナーは、たいてい三、四つのプロジェクトを同時進行ですすめている。
ひとつのプロジェクトを一人で進めていくということはまずない。
必ず数人で協力してやっていくが、担当者という形でメインで動いていくのは誰かというのは決める。
私が抱えているのは今、四つ。うち二つを「担当者」として動いている。
十四時から、食卓の縁と打ち合わせが入っている。
打ち合わせのために、進捗確認や今後のスケジュールなどすべての工程ややらなければならないことを洗い出し、精査した。
プロジェクトメンバーにも相談し、確認して、必要な書類は整った。
サイトの不具合や、そもそも不具合なのかどうかの調査も引き受けている。
もちろん、なにか追加したいとの希望があれば、なるべく早く対応するよう心がけている。
ウェブデザイナーというのは、地道な作業がほとんどだ。
長年の肩こりで、首をボキボキ鳴らすのもクセになってしまった。
「お疲れのところ悪いけど、田中さん、今から始めるね」
「はい」
先輩の吉丸さんが、冷房の効いた事務所なのに汗だくで私を手招きする。
反射的に姿勢を直すと、くいっと奥の部屋を指された。
どうやらミーティングのようだ。
太っちょの吉丸さんにとって、夏は天敵。ましてやエアコンの設定温度を二十八度にしろ、などというエコ思考なんて消滅しろと毎日念じているらしい。
ちなみに妻子ある立派なパパさんである。
ミーティングルームには、事務所よりももっと少人数のプロジェクトメンバー。
「今日はサクッとUI作成と、実装しちゃいたいんだよね。田中さんは何時から打ち合わせ?」
「十四時からなので、あと一時間ほどしたら出ます」
「了解。じゃあ早々にコーディングしよう」
吉丸さんが場を仕切り、概要をホワイトボードに書き出しながら説明を始めた。