ひと雫おちたなら
じゃあ、なにかやりたいことは?
聞く前に、睦くんが携帯をポケットから取り出して時間を確認する。
「今日、待ち合わせ何時だっけ?」
「……十六時」
「あと一時間半か。終わったらそのままバイト行くでしょ?」
うなずいて、手の中のタッパーの縁をぎゅっと握りしめた。
「なんか、その、ごめんね。変なことに付き合わせちゃって。ありがとう。お礼はするから」
精一杯の感謝を伝えるも、返事がこない。
あれ、と顔を上げると、睦くんのちょっと驚いたような表情があって、その反応が腑に落ちない。
「なに、その顔」
「ゆかりさんもちゃんとごめんねとかありがとうって素直に言えるんだ」
「失礼ね!素直の塊だよ?私」
「肝心なことは言えないのかと思ってた」
そんなわけないでしょ?
と、その場ではそう言い返したのだけれど。
あながち睦くんの指摘は間違っていないということを実感したのは、まさに一時間半後だった。
「ふーん、それで?新しい彼氏がそいつってわけ?」
どっちがこんなことになった原因を作ったのか分からなくなりそうになるほど、浩平はふんぞり返り、腕を組み、ついでに脚も組んで目を細めていた。
カラン、とヤツが飲み干したカフェオレの氷がとけて音が鳴る。
この音が、昔からわりと好きだったりする。
先に大学の近くの待ち合わせのカフェに着いたのは私と睦くんだった。
二人で先に席につき、外が寒かったのでブレンドコーヒーを二つ頼んだ。
そのコーヒーがテーブルに届けられた頃、遅れて浩平がやって来た。
彼は待ち合わせの時間よりも遅れてきたというのに、一切悪びれず、むしろ私の隣の睦くんを見つけるなり不機嫌モードに突入。
良くも悪くも彼は表も裏もない人だ。