ひと雫おちたなら
回顧4 ちゃんとあるよ
何度も何度も、彼の絵に付き合った。
夕暮れの時間帯、と限られているのもあり、日が暮れると同時に「明日もいい?」と言われるのだ。
最初は、お礼のためだった。
でも途中から、“彼のため”になった。
切り替わったきっかけなんて、何もない。
気がついたら、いつの間にか。
イヤホンをして、私との接点を絶って、彼の研ぎ澄まされた神経はキャンバスへと向けられる。
どこか遠くへ行ってしまった彼が、ここへ戻ってくる瞬間が好きだった。
ふっと部屋に差し込んでいた光がかげり、日が暮れたことを知らせる。同時に睦くんが帰ってくる。
「……お疲れ様。今日はこれまで」
「はーい」
私はぴょんと飛び跳ねるように立ち上がり、背伸びをした。
この時だけ着る、白いシャツワンピを脱いで違う服を着直すと、私のモデルとしての仕事は終わる。
「ゆかりさん、これ」
画材をしまい終えた睦くんが、ひらりと一枚の紙を私に渡してきた。
「んん?これは…」
「ピアノリサイタルのチケット」
…忘れてた!
「その顔は、忘れてたな」
ばっちり見抜かれてしまって、えー?ととぼけたもののもはや何をしても遅い。
日付を見ると、十二月二十四日。クリスマスイブだった。
わあ、イブに睦くんと二人でピアノを聴きにいくの?
なんだか予感もしていなかったシチュエーションだ。
「ちゃんと休み希望出しておいてね」
二週間ごとにシフトが出るシステムになっているうちの居酒屋では、こまめに休み希望を小塚店長へ願い出るよう言われている。
揃って希望なんか出したら、何を言われるか分かったもんじゃない。
でも、イブにピアノリサイタルなんて、ロマンチック。
ロマンチックという言葉とは程遠い私に、睦くんがくれたクリスマスプレゼントだ。
夕暮れの時間帯、と限られているのもあり、日が暮れると同時に「明日もいい?」と言われるのだ。
最初は、お礼のためだった。
でも途中から、“彼のため”になった。
切り替わったきっかけなんて、何もない。
気がついたら、いつの間にか。
イヤホンをして、私との接点を絶って、彼の研ぎ澄まされた神経はキャンバスへと向けられる。
どこか遠くへ行ってしまった彼が、ここへ戻ってくる瞬間が好きだった。
ふっと部屋に差し込んでいた光がかげり、日が暮れたことを知らせる。同時に睦くんが帰ってくる。
「……お疲れ様。今日はこれまで」
「はーい」
私はぴょんと飛び跳ねるように立ち上がり、背伸びをした。
この時だけ着る、白いシャツワンピを脱いで違う服を着直すと、私のモデルとしての仕事は終わる。
「ゆかりさん、これ」
画材をしまい終えた睦くんが、ひらりと一枚の紙を私に渡してきた。
「んん?これは…」
「ピアノリサイタルのチケット」
…忘れてた!
「その顔は、忘れてたな」
ばっちり見抜かれてしまって、えー?ととぼけたもののもはや何をしても遅い。
日付を見ると、十二月二十四日。クリスマスイブだった。
わあ、イブに睦くんと二人でピアノを聴きにいくの?
なんだか予感もしていなかったシチュエーションだ。
「ちゃんと休み希望出しておいてね」
二週間ごとにシフトが出るシステムになっているうちの居酒屋では、こまめに休み希望を小塚店長へ願い出るよう言われている。
揃って希望なんか出したら、何を言われるか分かったもんじゃない。
でも、イブにピアノリサイタルなんて、ロマンチック。
ロマンチックという言葉とは程遠い私に、睦くんがくれたクリスマスプレゼントだ。