ひと雫おちたなら
彼らが行ったのを見送ったあと、私よりも先に瑠美がそのメモを取り上げてさっさと開いてしまった。
「あーーー!こらーー!」
「どれどれ、どんな愛の言葉が綴られてるのかな、と…」
開いたメモには、数行なにかが書かれているのは見てとれた。しかしなにぶん小さいメモ用紙に書かれた文字なので、よく見えない。
瑠美と二人して身を寄せ合ってメモに顔を近づけた。
睦くんの、男の子にしてはそこそこきれいな字が並んでいた。
“ゆかりさんの絵は、雑誌のコンテストに応募しておきました。結果は二ヶ月後です。確認お願いします”
えらく他人行儀な、業務連絡のような書き方をされて腹が立った。
あれだけズケズケと年上の私に敬語も使わずになんでも言っていたくせに。こういう時だけ、ですます口調なんて、納得がいかない。
「なんなのよ、ほんとむかつく…」
もらったメモを、ぐちゃぐちゃに丸める。
ちょっとちょっと!と慌てたように瑠美が私を止めようとしたけど、それを振り切って食堂のゴミ箱に突っ込んでやった。
「もういい!どうでもいい!あんなやつ!」
ふんっ!と鼻を鳴らして歩き出した私の後ろを、瑠美が追いかけてくる。
困ったように苦笑いしながら。
私と睦くんのつながりは、そこで切れてしまった。