ひと雫おちたなら
こざっぱりと揃えてある髪の毛は清潔感のあるものだったし、体型にあった細身のストライプのスーツもよく似合う。クレリックシャツのセンスもいい。
八年前は髪は長めでいつも目にかかっていて、服なんかつねにダラッとしたものばかり着ていたはず。
年月が経つと、こんなにも人は変わるものなのか。
驚きすぎてその場に固まってしまった私を見て、彼は面白そうに肩を震わせて笑っていた。
「オーバーリアクションは変わってないね」
「どういうことなの……、睦くん」
目の前にいるひとが、あの久坂睦くんだなんて。
こんな形で再会するとは思ってもみなかった。
睦くんは床に落ちている私の名刺を拾いあげ、いただきますねと微笑む。
そのままジャケットの内ポケットから革製の名刺入れを出すと、彼の名刺を私へ差し出してきた。
名刺交換だと気づき、慌てて歩み出て両手で受け取る。
『食卓の縁株式会社 広報部 伊佐山 睦』
……本当に睦くんなんだ。
当たり前のことを思ったけれど、なかなか頭が現実を受け入れてくれない。
ぼんやり彼の名刺を見つめる私に、睦くんがイスを引いてトントンと肩を叩いてきた。どうやら座ってと促しているらしい。
「積もる話はありますけど、とりあえず仕事しちゃいませんか」
落ち着いているのは、彼だけだ。
どうして冷静でいられるの?信じられない!
「……ごめん、睦くん。積もる話よりも仕事よりも、先にお願いがあるの」
「はい、なんでしょう」
「お茶のお代わりください」
もう無理!
ノド、からっから!