ひと雫おちたなら
私には思いつかない配置や配色だったけれど、不思議としっくりくるものがあった。
「…たしかにこっちの方がいいですね、見やすくなりました」
「変更ありがとうございます。これもひとつのデザイン案として挙げておきます。あと、もう一個いいですか?」
「はい」
初めてウェブデザインに携わるにしては滑らかな対応、要求。まるでずっとやっていたようだ。
「新商品のウェブデザインは、まるっとボツにしていいですか?」
─────は?
ボツだと?と言葉もなく彼に視線を送ると、いたって普通の温度で「いいですか?」とまた繰り返された。
「インパクト勝負にしたいので、これまでのぼやっとしたデザインはやめにしたいんです。…そうだな、背景は思い切って黒にして、一番目立つトップに動画を持ってきたいです」
「…あ、はい」
急いで言われたことをメモする。
「スタイリッシュなイメージで。テレビCMも予定してるんですが、そちらとの兼ね合いでまた要望が少し変わるかもしれません」
「なるほど、分かりました」
「これ、あとで田中さんも食べてみませんか?美味しいので。試食用意しておきます」
新商品によほど力をいれているらしい。
彼が持っていた資料を広げて私に見えるようにしてくれた。
“とろっとたまご”というネーミングのそれは、家庭で作った野菜炒めやチキンライスにのせるだけで半熟とろとろのオムレツやオムライスができてしまうという、なかなか画期的な商品だった。
生クリームやチーズがふんだんに使われていて、家庭でレストランの味になるという。
たしかにその商品は、デザインを作っている時から気になってはいた。
「お腹が鳴りそうです」
と正直につぶやくと、睦くんは楽しそうに笑った。