夏の雨【短編】
どうしてあんなにも好きだった感情が冷めてしまうんだろう。


かつては私もこの恋を“運命の恋”だと思っていた。


彼が好きだった頃は彼の全てを知りたいと思っていたのに。


今となってはどうでも良い。


最早、自らで捨ててしまった恋心だ。





菊川里緒(きくかわりお)、19歳。

割と何処にでもいるごくごく平凡な女子大生。
ただ‘ごくごく平凡’と言っても、余り人付き合いが上手では無い。


外見だって肩まで伸びたセミロングの髪に、子供の頃からずっと掛けている度のキツい眼鏡のせいで今いちパッとしない。


…疲れ目かな。眼鏡の度は合ってるのに、目がぼやける。


それに。

さっきから異様に背中が暑い。



本を数冊入れた鞄と背に受ける9月の太陽の熱が、嫌というほど私を疲れさせた。


夕方の西陽という、今の微妙な暑さが“ぬるま湯に浸かったままの恋”、--いや、今はもうぬるま湯じゃないか--を連想させたのだ。



「あっ、里緒! 今帰りかよ、おっせぇなぁー」


聞き覚えのある声に顔を上げると、10メートルほど離れた私の家の前に慣れ親しんだ姿が有った。
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