夏の雨【短編】
…翔(しょう)。
隣に住む一つ年下の幼馴染くんだ。
私より20センチほど背が高く、割と綺麗な顔立ちをしている。
昔から翔とはよく遊んだし、何でも話し合えた。
他人で私の事を一番よく理解しているのは、翔以外いないと言っても過言ではない。
…また来たんだ。
何故かその一瞬、さっきまで重かった足が心持ち軽くなった様に感じられた。
「待ってたんだぞ、英語教えてくれ」
言いながら翔は私の方に駆けて来た。
…英語ねぇ。高校の問題とは言えども、今はそういう気分じゃないんだけどなぁ…。
嘆息する私の表情から、気持ちを察したのだろう。
翔はからかう様に言った。
「そんな心構えじゃ、到底立派な英語教師にはなれないぞ?」
私の隣に並び立つと、翔はゆっくりとした歩調で来た道を戻る。
…そりゃあ確かに。あたしの夢は立派な英語教師になる事だけど。
こいつ、いつからあたしを諭す様になったのかしら…。
ジロリと横目を向け、今まで肩に圧力をかけていた鞄を‘持って?’と言わんばかりに、翔へと押し付けた。