夏の雨【短編】
「…まぁ。良いけどね」
呆れた目をして翔が笑う。
…そうそう。タダで勉強を教えるんだから、これぐらいの事はしてもらわなきゃ。
私は僅かに頬を緩めた。
門の前まで来ると、翔は足を止めて私の顔色をうかがった。
「…里緒。最近あの彼氏とはうまくいってんのか?」
…あ。今一番話題にしたくない内容だ。
私は俯き、頭を振った。
「…そっか。ごめん…」
バツが悪そうに、翔は目を逸らした。
…良いのよ、別に。もう自然消滅なんだから。
私は顔を上げ、小さく笑うと、再度首を振る。
「無理に笑わなくても良いよ。里緒はまだ好きなんだろ?」
…好き?
胸の奥が軋みを上げ、ズキンと痛んだ。
…違うわ。好きだったら絶対涙が出てる。
先に玄関へと進む翔の背を見送り、私は込み上げる歯がゆさに唇をかんだ。
*
揺れる時の波。
容赦無く照りつける日差しの中、私はひとり、大学の校庭を歩いていた。
…やっと帰れる。
いつまでも残る夏の暑さ。この時期の太陽は‘こころ'を刺激しているみたいだ。
「よぉ、菊川じゃないか! 久しぶりだなぁ」
…え。
呆れた目をして翔が笑う。
…そうそう。タダで勉強を教えるんだから、これぐらいの事はしてもらわなきゃ。
私は僅かに頬を緩めた。
門の前まで来ると、翔は足を止めて私の顔色をうかがった。
「…里緒。最近あの彼氏とはうまくいってんのか?」
…あ。今一番話題にしたくない内容だ。
私は俯き、頭を振った。
「…そっか。ごめん…」
バツが悪そうに、翔は目を逸らした。
…良いのよ、別に。もう自然消滅なんだから。
私は顔を上げ、小さく笑うと、再度首を振る。
「無理に笑わなくても良いよ。里緒はまだ好きなんだろ?」
…好き?
胸の奥が軋みを上げ、ズキンと痛んだ。
…違うわ。好きだったら絶対涙が出てる。
先に玄関へと進む翔の背を見送り、私は込み上げる歯がゆさに唇をかんだ。
*
揺れる時の波。
容赦無く照りつける日差しの中、私はひとり、大学の校庭を歩いていた。
…やっと帰れる。
いつまでも残る夏の暑さ。この時期の太陽は‘こころ'を刺激しているみたいだ。
「よぉ、菊川じゃないか! 久しぶりだなぁ」
…え。