上司との同居は婚約破棄から
夕食は出来上がっていて既に座っていた高宮課長に「席につけ」と声を掛けられた。
促されて高宮課長の前の椅子をひいた途端に溜息が聞こえた。
「斜め前に座ってくれ。
視界が煩わしい。」
イメージ通りの高宮課長に些か安堵する。
優しい言葉を掛けてくれるイメージなど皆無で、まぁ実際に今までかけられていない。
ただ私のことを部下として可愛がってくれるくらいの人情はある人なんだ、、というのが意外だった。
部下が困っている場面に通りかかったからといって自分の家に住まわせるなんてこの世の終わりかってくらいに高宮課長からは想像し得ないことだった。
「悪くないな。
他人と食べる自宅の夕食ってのも。」
思わぬ言葉をかけられて唖然とした。
言葉をかけられたというよりも思わず声に出た独り言というのが驚きに拍車をかける。
「離婚ってそんなにダメージがあるものですか?」
「は?そっくりそのまま返してやるよ。」
不機嫌そうに言い返された方が安心するってどうかしてると思う。
「会社で私のこと特別扱いしないのも高宮課長だけですし、そんな風にズケズケこの話題に触れるのも高宮課長だけです。」
「お前こそヅカヅカ土足で人の柔いところに踏み込んでるだろ。」
「……そんなに離婚って…………。」
「煩い。黙ってろ。」