上司との同居は婚約破棄から
3.弱味を握った者同士
どうやって職場に出勤していたのか思い出せないくらいに必死で会社に行っていた数週間。
いくら辛くても会社を休んでしまったら、私はどうにかなっていたと思う。
その間、何度も高宮課長に怒られてこの人、血も涙もないんじゃないの?って思って、そしてそこからここへ住むことになった。
ここ2日間はやっと人間らしい感情を取り戻しているような気がして、変なのと笑みがこぼれる。
全体を通して高宮課長に怒られてばかりだったことしか思い出せないのに、怒られて沈んで、怒られて安心した。
私がどうなろうとも変わらない世界があることに何故だか嬉しかったような気さえする。
そして言葉では優しくないのに、態度はとても優しい、、と思う。
ただ信用されていないだけと言えばそれまでだけれど、掃除も洗濯も全て高宮課長がやってくれた。
さすがに下着は自分で洗うけど、後は全部。
まるで実家に帰ってきたみたいな甘やかしがそこにはあって、今日なんかは仕事の外出にかこつけて夕食の準備をしてくれてあった。
『温めて食べること』のメモ書きを眺めてそのままダイニングテーブルでうたた寝していた私に「なんだ。食べてないのか」って少しだけ嬉しそうな高宮課長の顔を見たのは意外だった。
あぁ、それに。
そもそも料理から家事全般が完璧なのは意外と言うべきか、高宮課長らしいと言うべきか。