上司との同居は婚約破棄から
高宮課長がおもむろに席を立つと菊池さんが声を掛けた。
「俊哉。便所か?
しょんべん座ってしろよ。」
「へいへい。そういう忠告、萎えるわ。」
仲の良さがうかがえるあけすけな会話がなされて呆気に取られていると菊池さんは私へ携帯を向けた。
「連絡先、交換しようか。
俊哉のことで困ったら連絡して。」
「えっと、、。」
奥様を横目で確認すると微笑んで見ている。
私は戸惑いながらも自分の携帯を差し出した。
「大きなお世話かもしれないけど人を信用し過ぎじゃないかな?」
交換しようかと自ら言っておいて、菊池さんは思ったよりも意地悪かもしれない。
「菊池さんが私に良からぬことでもしそうだからってことですか?」
「まぁ、そんなところ?」
菊池さんは試すように笑う。
「もし、菊池さんがそういう方なら奥様が見ていないところで聞くでしょうし。
どちからと言えば、私が信用されていないんですよね?」
「ん?どういうこと?」
「高宮課長と住むようにけしかけたくせに本当のところは、悪い虫がつかないか吟味してるみたいに感じます。」
目を丸くした菊池さんが奥様と顔を見合わせて、そして声を立てて笑った。
「これは一本取られたね。」