上司との同居は婚約破棄から
愛梨さんはにっこりと微笑むと、完成させたサラダのミニトマトを1つ手に取って私の口へ押し込んだ。
「大変なことがあってもね。
きっとそれが笑い話になる時が来るものなのよね。」
私の身に起こったことを聞き及んでいるのかもしれない。
例えそうだとしても、愛梨さんの押し付けがましくない言い方は甘酸っぱいミニトマトを飲み込むのと同時に私の胸にストンと落ちてくる。
私もいつか笑い話に出来る時が来る?
今は、目を向けたくない現実から力一杯目を背けることしか出来ないけど、いつか……。
「藤花ちゃん……って呼んでいいかしら。」
「えぇ。もちろんです。
私も愛梨さんってお呼びしても?」
「えぇ。もちろんいいに決まってる。
でね、藤花ちゃん。
とっても手際がいいのね。」
私は頼まれていた、たらこパスタの上にのせるという大葉を刻んでいた。
褒められると少しばかり照れ臭い。
「一人暮らししてましたし、それに両親が共働きで子どもの頃から作らざるを得なかったというか……。」
「じゃ驚かしちゃいましょうよ。
特に俊哉くん。きっと驚くわ。」
高宮課長を俊哉くん呼ばわりする愛梨さんのすごさを垣間見つつ、私は愛梨さんの悪巧みに乗ることにした。