上司との同居は婚約破棄から
「とにかく風呂行ってこい。」
「あの、いいんですか?」
「何が。」
「その、本当にここに住んで。」
私の言葉に少し考えたような素振りをした高宮課長が視線を逸らして呟いた。
「飛んで火に入る夏の虫……かな。」
「………はい?
今、真冬ですけど?」
「まぁいい。
とやかく言ってないで風呂へ行け。
風呂。」
会話を遮って背を向けると高宮課長は下へ降りていってしまった。
私の弱味につけこんでどうこうしようと思っていないことくらい私にも分かることだ。
高宮課長の真意も、それに常識とか、遠慮とか、その他諸々を考えられる気力が今の私にはなかった。
ただ茶化すくらいしか出来ずに与えられる厚意をそのまま受け入れた。
温かいお風呂。清潔な寝床。
それらはとても有り難かった。
考えなきゃいけない全てを放棄して私はベッドへ潜り込むと目を閉じた。