上司との同居は婚約破棄から
「わぁ………。綺麗………。」
ずっと木ばかりを見つめて歩いていたところへ急に辺りの視界が開けた。
眼下には美しい夜景の瞬きが見える。
「藤花。こっち。」
手を引かれ月明かりを頼りにテーブルとベンチらしきものを確認して腰掛けた。
私を先に座らせた高宮課長は私の後ろから腕を回して脚と脚の間に挟み込むように無理矢理後ろ側に座った。
腕は私の体を覆って抱き締められている。
否が応でも密着して一気に鼓動が速くなった。
「た、高宮課長?」
「今は俊哉って呼んで。」
「え、えぇ。」
どうしてか弱々しい声に胸が締め付けられた。
「ここへ、来たことがある。」
「そう……ですか。」
それだけで何を言いたいのか分かってしまって切なくなった。
それでも『みー』って人とですよね?とは聞けなかったし、どうしてかハッキリ聞きたくなかった。