キミに降る雪を、僕はすべて溶かす
電話で言ってた通り、ミチルさんは普段より一時間くらい早く、7時前には帰って来た。
出迎えたあたしを靴も脱がないままでぎゅっと抱き締め、頭の天辺と唇にキスを落とす。

「りっちゃんの『おかえり』で、一日の疲れがぜんぶ飛ぶよ」

相変わらずの綺麗に整った貌が、間近に見下ろして言うもんだから。こっちは魂が抜かれそうになるけど。

「そんな効果があるんだったら、出し惜しみはしないでおくね」

「もちろん僕が独り占めだけどね」

悪戯っぽく笑えば、にっこりと不敵そうな視線が返された。




きんぴらの他にカレイの煮付けと、ほうれん草の胡麻味噌和え、それと炊き込みご飯を並べ、上着とネクタイを取ったミチルさんと一日ぶりの食卓についた。
保科さんがカフェのマスターをしてることや、当たり障りのない話を聴かせながら。

洗い物を終え、二人分の珈琲を淹れてリビングに戻ると、ミチルさんはソファでノートパソコンに向かってた。
邪魔にならないようマグカップを前に置き、ちょこんと隣りに腰かけたあたしは、点けっぱなしのテレビを眺める。

近頃のゴールデン番組はクイズ形式がやたら多い。思い出せそうで思い出せない答えとか、気が付いたら夢中になってたり。
だから不意にミチルさんの腕に掴まえられた時も、驚いて思わず何語だか分かんないような声が飛び出た。
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