キミに降る雪を、僕はすべて溶かす
気が付いたらコロンと転がされて、仰向けにミチルさんの膝の上に頭を乗っけてる。彼はそのまま片手でテーブルの上のパソコンを弄ってるワケだから、つまり。ミチルさんを至近距離で見上げてる体勢で、身動きが取れない。

「・・・ミチルさん?」

「ん。・・・なに?」

画面から目を離さずに、柔らかく返る声。

「えぇと・・・邪魔じゃない?」

「ちっとも」

言いながら、空いてる左手があたしの髪を撫でた。

・・・・・・ミチルさんは、こうやって自然に恋人ぽいことするから。
“妹”の境界があやふやになりそうで困る。
一線を越えたって。ミチルさんが愛してるのは、お兄ちゃんだけなのに。

きゅっと胸の奥で噛みしめた。

一度だけ訊いてみようと思った。
ミチルさんがどう答えても、受け容れる。その覚悟を決めて。


「ミチルさん」

「うん?」

あたしが下から見つめる視線と、前を向いてる彼の視線は。十字に交差したまま。

「・・・・・・本当にいいの?」


あたしと結婚しても。


唐突に投げかけた言葉の意味を。彼は確実に捉えてた。
まるで一瞬で切り替えたみたいに、感情の読めない深い眼差しが注がれ。あたしは微かに息を呑む。・・・でも。逸らさなかった。

「もし、お兄」

言いかけたあたしの口を大きな掌でやんわりと塞ぐと、ミチルさんは微笑して静かに首を横に振った。

「・・・僕は自分に何ひとつ、後悔するつもりはないよ」
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