キミに降る雪を、僕はすべて溶かす
あたしが偶然、淳人さんの会社を選んだことで。真っ直ぐだった道が突然曲がり出して、先がまるで見通せなくなった。
考えても、どこをどう行けば正しいのかが分からない。
お兄ちゃん。そんなとこで黙って見てないで、助けてよ・・・・・・。
ウィンドゥの外をぼんやり見つめて、そっと吐息を逃す。


カーディーラー店や量販店沿いを、流れに乗って走り続ける車。
信号待ちに差し掛かり、テールランプの最後尾にゆっくり並んだ。

「りっちゃん」

不意の声に、隣りを振り仰ぐ。
ミチルさんがこっちを向いて、静かにあたしを見つめてた。

「僕は確かに、隆弘の代わりにりっちゃんの傍にいようって決めてる。隆弘の宝物で、僕にとってもすごく大事な子だからね」

深い眼差しだった。

「・・・でも、あいつの身代わりにしようと思ったことは、一度もないよ」


あたしは一瞬。目を見張って。
笑おうとしたのに、泣きそうになって慌てて顔ごと背けた。

淳人さんは、あたしを寂しさを埋める道具にするなって、ミチルさんを責めた。
あたしは。それでもいいって、ずっと思ってた。訊く勇気もなくて、触れもしなかった。

望まないって言い聞かせながら。本当は云って欲しかったなんて。
子供みたいで自分が情けなかった。

「・・・ごめん。泣かせたね」

ミチルさんの優しい指が、そっと目許を拭って離れていった。

「帰ったら、抱き締めさせて」

いつもの柔らかい響きに、あたしはこれ以上涙が零れないよう、頷くのが精一杯で。





その夜、あたしは。
抱かれるのは初めてじゃないのに、初めてミチルさんと繋がった気がした。
慣らされた躰で受け容れて、でもいつもココロは埋まりきってなかった。

「・・・・・・りっちゃん」

少しだけ低くなる声も。

キスも。

全部に。

満たされて。求めて。与えられて。


シアワセな心地で、眠りについた。
ミチルさんの腕の中で。



辿り着く先は、手探りのまま。
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