キミに降る雪を、僕はすべて溶かす
「それからパトカーに乗ったらしいから、お母さんはスーパーからいなくなってたんだろうね。・・・警察に保護されて、隆弘はりっちゃんと迎えを待ってた。その時に、廊下で二人の婦警が話してたそうだよ」

ひとつ間を置いて、静かに続ける。

「自宅から30キロも離れたスーパーにわざわざ来て、財布が無いことに気が付いたから一人で家に取りに帰った、なんて言い訳を信じると思ってるのかって。自分の子供を置き去りにして物みたいに捨てるなんて、親のすることじゃない、そう怒るのを聴いて、隆弘は子供心に納得したって言った」

「納得・・・?」

あたしの非難めいた訝しむような響きに、深い眼差しが傾けられた。

正直言って、あたしには全然憶えがなかった。
そもそも物心がついた頃にはもう、祖父母と5人暮らしで。お母さんは日中、働きに出てたのか、おやつをくれるのはおばあちゃん、遊んでくれるのはお兄ちゃん、それが当たり前の毎日だった。

だからってお母さんに邪険にされたこともないし、手を繋いで一緒に出かけたり、うろ覚えでも記憶にちゃんと残ってる。

あのお母さんが、お兄ちゃんとあたしをスーパーに置き去りした?
・・・信じらんない。なにかの間違いじゃなくて?

思わず立ち止まった足。
半身振り返って見つめるミチルさんに、あたしはぽつんと呟いた。

「お兄ちゃんがウソ吐くなんて思わないけど、・・・お母さん、そんな人じゃなかった」
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