キミに降る雪を、僕はすべて溶かす
「じゃあ出かけようか」

パソコンを閉じ、ソファから立ち上がったミチルさんがあたしの前に来ると、やんわりと肩を抱いて天辺に軽くキスを落とす。

そっと仰ぐと、穏やかな眼差しが注がれた。
控えめなストライプが入った濃紺のスーツに、バレンタインにプレゼントしたサックスのネクタイを締めてくれた彼。
先週の土曜日に髪を切りに行ったばっかりで、ちょっと短くなった前髪を形良くワックスで流し気味に整え、いつもの美貌に加えて、眩みそうな爽やかさもブレンドされてる。

初恋で。片恋の、あたしの王子様。

これからもそれはずっと変わらない。

妹と兄。それも、ずっと変わらない。

ミチルさんの鳥籠の中で、あたしは生きてく。

止まり木に繋がれてた鎖は、これからはミチルさんと繋がれる。

死ぬまで。

あたしは、ミチルさんのもの。



ミチルさんはもう。どこにも行かない。



愛おしい人の顔を見つめ返して、微笑む。

「・・・うん。お兄ちゃんも待ってる」
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