キミに降る雪を、僕はすべて溶かす
市役所の窓口に、ミチルさんと一緒に立ったその瞬間が。一番緊張した気がした。
もう一度呼ばれ、係の職員さんに手続きの完了を告げられた時は、なんて言うか。思考回路は、状況を認識しようって倍速で回転してるのに、気持ちはスロー再生のまま追いついてこなくて。

駐車場に停めた車に戻って、助手席でしげしげと婚姻届受理証明書を見つめても、まだどっか実感と現実が巧く噛み合ってくれてなかった。

「今日から、お揃いの苗字だね」

大きな掌が頭を撫でる。
ゆるゆると顔を上げて隣りを向けば、淡く微笑むミチルさんと目が合った。

ほっとしたような。今の自分をどう伝えていいのか分からなくて。
色んなものが綯い交ぜになって、何かが込み上げて。・・・つい涙が零れた。

「隆弘に怒られるかな。りっちゃんを泣かせた、って」

ミチルさんは、熱いものが溢れてくる目尻を何度も、指で拭ってくれた。


この温もりが無かったら。とっくに生きることも投げ出してた。
お兄ちゃんって太陽がどこにも無くなって。真っ暗になった世界を、優しくて綺麗な月の光で照らしてくれたのは、ミチルさんだった。

抱き締めて、温めてくれたのは。
笑顔を取り戻させてくれたのは。
一人ぼっちじゃなくなったのは。

ぜんぶ、ミチルさんが。



これだけ叶えてもらったら、もう十分だから。
ここから先は、あたしがミチルさんの望みを叶える番。
あたしに在るもの全部で、惜しんだりなんかしない。


「・・・・・・ミチルさんが好き。・・・だいすき」

明るく笑って言いたかったけど。やっぱり涙が止まらなくて困った。

しゃくり上げて、子供みたいにぼろぼろ泣きながら。
スキって繰り返すたび、「僕もりっちゃんが好きだよ」って。
あやすように、ミチルさんの声が優しく降った・・・・・・。




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